続続・よいこの1日  -

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06

26

21:42
Thu
2008

No.0395

藪の中

週初の月曜日。
新人達と一緒に食事へ行くのでいつものように走って帰らぬようにと
上司から内線がかかってきた。
もちろんいつものように走って帰ろうとしていた私は
いやはやと汗を拭きながら座りなおす。

週末でもないのに外食でお酒飲むなんて嫌だなと思いつつ
行ったら行ったでそんな憂いは忘れた。
1次会の料亭で既にあり得ないほど酔っ払ってしまった私は、
気がつくと支店長のいきつけであるスナックでどんどこ飲んでいた。

次に気がつくと、皆でボックス席にいたはずなのに
私はカウンターに座ってまだまだ飲んでいた。
振り返って辺りを見回すと、会社の人たちは誰もいない。
ちょっと考えてから、隣にいるのは支店長かなと思って横の席の殿方に目をやると
何というか、知らないおっさんだった。

その次に気がついたのは、私はスナックの入っているビルの前で
ママに手を振って別れを告げているところである。
携帯電話が鳴っているので慌ててかばんを開けると着信が止んだ。
歩きながら携帯電話を取り出し、時計を見ると1時半。
不在着信の相手は知らない番号である。
かけてみるとしぶい声のおっさんが出た。
期待していた相手と違ったため、「どちらさまですか」と冷たく聞く。
が、何を言ってるのかよくわからなかったため半分キレ気味に
「あんたなんか知らない人です。私、あなたに番号教えた記憶なんてございませんが」
と、言うと何だよそれホナもういいと言って切られた。
悲しくなった私はタクシーに乗りこんだ。

次に気がつくとタクシーを降りて私は家の前にいた。
自室への階段をあがり、服を脱いでそのままベッドに倒れこんだ。

早朝、起きた私はまだ酔っ払っていた。
が、会社の人達から離れて知らないおっさんと盛り上がるようになった経緯は
どうしてもどうしても思い出せないでいて、
ああ、私は上司達に大変失礼な振る舞いをしたのではなかろうかと心配になり、
意を決して6時52分という早朝にも関わらず、支店長の携帯電話を鳴らした。
出社して皆に会う前に、どうしてもポカの詳細を知りたかったからである。
しかしながら電話に出た支店長は私よりももっと酔っ払っていて
とてもじゃないが役に立たなかった。

会社にこっそりと入って行き、水を飲みながら携帯電話をいじっていると
あの妙な番号を見つけたため、まだ半分酔っている私はその番号にかけてみた。
誰も出なかった。
・・・と、思ったらかかってきた。

ドキドキしながら電話にでて、昨日一緒に飲んだおっさんですよねと聞いてみたところ、
そうですとの返事を得た。
昨晩の失礼を詫びると彼はイエイエと言いつつ妙にヨソヨソしい。
と、いうか2人で盛り上がりつつ散々ボトルの酒を飲みまくられた相手を心配して
電話をかけてやったにも関わらず、
別れた30分後には「アンタ誰」なんてキレ口調で言われたもんだから
それはそれで仕方がないことであろう。
で、翌日の早朝にケロリと電話してくるなんて私がおっさんだったらきっと
バカヤロウと怒鳴り散らしてやるところである。

さかんに電話を切ろうとするおっさんに「最後に一つだけ聞きたいことが」と呼び止めた。
「何か?」と聞くおっさんに私は、
「どうして私は昨日、あの席にいたのでしょうか。」
と、尋ねた。

もちろん答えは
「知るもんか」
である。
「ですよね・・・」
と、苦笑いしながら私は電話を切った。

粗相の顛末が解からず終いだったもんで
ビビりながら階下に降りると
昨晩の出席者は全員酔っていた。
そして私は誰からのお咎めもなかった。
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06

25

23:09
Wed
2008

No.0394

LDL

先日の健康診断の結果がやってきた。
今回は非常に自信があった。
きっとすごくすごく健康で言う事ナシみたいに
褒めちぎったコメントをくれるだろうと私は予想していた。

去年は右耳が全く聞こえていませんと言われたため、
一応病院に行ってみたところ、
「キレイな耳の中ですね問題ないです記念にどうぞ」
と、そのキレイな耳の中の写真をもらって帰った。
今年は両耳とも問題なく聞こえた。

それにここ1年、風邪一つひいてないし
かのんと毎朝30分くらいは散歩しているし
週末は山を歩いて登っているし
毎晩ストレッチ体操や腹筋やっているし
食事も外食は殆どせずに家でもずくとか食べてるし
夜8時以降は食べないようにしているし
毎日ジュアール茶飲んでいるし。
あ、あと歯医者にも行ってるし。。。。

期待しながら封筒を破ってみたら、
先生のコメント欄に
「申し分のない生活習慣で健康的なライフスタイルのお手本です。
ぜひ周りの方にそのコツを伝授してください。」
と、嬉しいメッセージが書かれてあった。
ほぅらご覧と私は密かに鼻を鳴らす。

しかし問題は、私の腕に内出血を作った憎き血液検査の結果である。
今年は悪玉コレステロールが多いと太字で数値が書かれており、
その下に「要生活習慣改善」という文字があった。
別のコメント欄に、生活習慣の相談に乗りますよという文章に
電話番号が添えられていた。

私の生活習慣は"申し分のないお手本"なんじゃなかったのか。
一体こったいどういうわけでこんな矛盾が生まれるのか。

家に帰り、早速おかーしゃんに報告した。
おかーしゃん、悪玉コレステロールが多いと書かれてしまいました。
私はこれから毎日トーフともずくとタマネギをいっぱい食べたいと思います。
それを聞いたおかーしゃんは自分のご飯が批判されていると思ったのか甚く憤慨して、
「おかーしゃんの用意しているごはんは完璧ですよ。
アンタ、肉も嫌いだし揚げ物も食べないしご飯は問題ないはずじゃないの。
babarはもうトシなんだからその数値はきっとトシのせいですよ。そうに違いないわ」
と、私の決意を一蹴。

トシ・・・とかいう言葉が聞こえたような気がしたが
意味がよくわからないのでセルライトローラーを横腹に転がしながら
かのんの歯を1本2本と数えていたら
TVからニコチンパッチのCMが流れた。
06

18

23:02
Wed
2008

No.0393

私の居場所

実家暮らしシングルライフの私はもちろんベッドもシングルだ。
ノミほどの背丈しかない私にはこれで特に不満はない。

幼い頃に時々、姉pinguと一緒に一つのベッドで寝ることがあった。
pinguに比べると私は非常に寝象・・・寝相がいい方なので
そんな時はpinguが壁側で眠り、床側を引き受けた私は
ちょくちょくpinguに蹴り飛ばされてベッドから落とされたものである。
蹴り落とされるのを恐れてベッドのすれすれの位置に横たわってみても
彼女の足は私がベッドから落ちるまで追いかけてくるので大して効果はなかった。

大きくなって(pinguが嫁に行く前までだから2年前か)からも
この位置関係は変わらなかった。
一つ違いがあるとすれば、大きくなったpinguは
私よりもノミサイズの癖にダブルベッドを購入していたため
蹴られることはあっても落とされることがなくなった事ぐらいである。
で、ここにpinguの旦那であるおっさんが加わった時は
壁際からおっさん、pingu、私と川の字になるので
私はこの漢字を意識してちょっと曲がってみたりもするのだが
pinguが眠ったら最後、穏やかだった川は氾濫した水の如く荒れ狂うこととなる。
彼女はおっさん側にも私側にも縦横無尽に転がり続けた。

ダブルベッドで悠々とひっくり返りひっくり返り眠るpinguとは裏腹に
私は今でもシングルベッドでちまりと眠る。

かのんが我が家にやってきた当初はこのシングルベッドで一緒に眠った。
かのんは私の腕枕でもちろん壁際でイビキをかいていた事を思い出す。
大人になった今は1階にある自分専用のベッドで寝たい時に寝て、
暑くなれば床の上に寝そべる生活を送っている。

また、とある殿方に買ってもらった身長1mほどのふもふもさんカエルが
ベッドの半分を陣取っていた時期もあった。
そのふもふもさんにも私は嬉々として壁側を譲り、
夏の暑い夜も冬の寒い夜も残りの半分のスペースで幾夜を過ごしたものである。
1年以上もの間、私と一緒に眠ったこのふもふもさんは
去年、会社の忘年会にて2次会の資金を集めるチャリティオークションに出品されて
見事に落札されたため、今は人手に渡っている。
ふもふもさんがいなくなった日の夜、ベッドに寝転がった私は
何て広いベッドだろうと大変驚いたのだった。

pinguは嫁に行き、かのんは自分のベッドを持って自立し、
ふもふもさんは会社の2次会の飲み代となり、
現在では眠る私の隣には誰もいなくなった。
蹴られる心配も、かのんに腕を貸すことも、
シングルベッドの半分のスペースで直線になって眠ることもなく、
心置きなく一人でこのシングルベッドを使える身である。

が、大の字になって眠ることのできるスペースを得たにも関わらず、
気づくと私はいつも床側すれすれの場所で眠っている。
意識していなければベッドに横たわる時点で既にベッドの端、
がんばって真ん中に寝転がってみても
朝起きたらやっぱり床側すれすれのいつもの場所にいるのだ。
四角い長方形の中のこの一角が私の居場所なのである。
06

15

19:06
Sun
2008

No.0392

蜘蛛の糸

ボランティア仲間のD殿・H殿・S殿・M殿と5人で山へ登るのである。
山頂までの道のりは暑くてしんどくて大変だった。
中腹で、ちょっと開けた場所に出たもので上を見るとリフトが通っていた。
いいなぁリフト、あれに乗ればよかったねぇと
M殿が後ろで叫んでそうだねそうだねと皆、頷いていたけれども
私は黙って誰も乗っていないリフトを眺める。
リフトに乗って山を登りたいと思わなかったからである。

それから程なくして山頂に着いた。
そこは何もない山だったけれども
涼しい風が吹いていてとても気持ちがいい。
天気も良い。
登る道中ではこの天気、暑くて死にそうとかぼやいていたけれども
山頂ではいいお天気だ晴れてて良かったと雲ひとつない空を5人で見上げた。

さて、十二分に休憩もして下山の時刻、
山道へ向かう道を歩き出そうとしたところ、
仲間の一人、D殿がどうもあまり体調が優れぬということで
一人だけリフトで降りるのだと呼び止められた。
そこでリフト乗り場までD殿を送っていくことにした。

リフト乗り場は無人で、誰も乗っていない椅子だけが
下の方からやってきては折り返すという具合にくるくると回っている。
そのリフトは2人ずつ向かい合って乗る、
4人乗りと思われる大きさだがどうも定員は3人らしい。
私達はわーわーと騒ぎながら、
動き続けて待ってくれないリフトにD殿を急いで乗せた。
1人で乗るには大きすぎるリフトにD殿がぽつんと一人で座っている姿が妙に目についた。

続いて次のリフトがやって来た。
相変わらず誰も乗っていない。
D殿が一人ぼっちになる事を心配して思わずM殿が乗り込んだ。
それにH殿が続いた。
そこで私も向かいに座った。
やれやれリフトが早いから乗るの怖かったねと3人で笑いあう。

リフトが乗り場を離れる直前、S殿が急いで乗り込んできた。
ちょっと寄ってねと言いながらM殿とH殿が座っている方に
ぎゅーとお尻を押し込んだ。
リフトが揺れる。
しかも3対1で非常にバランスが悪い。
M殿とH殿は窮屈そうに顔を歪めながら、
片側に3人は絶対無理とS殿に言った。
え?と笑顔で聞き返すS殿に私は、
定員は3人だ、S殿で4人目になるから定員オーバーだと告げた。
S殿は何それ全然知らなかったと驚いた顔をする。
知らなかったのは別にいいけれどもどう考えたら
2人が座っていっぱいいっぱいのこのリフトに
ムリヤリ尻を押し込む気になるんだと3人はむっとした表情をした。
仕方ないからこっち側に移動してほしいと私はS殿に言ったが
リフトは既に乗り場を離れていて移動するのは危険である。
前のリフトに1人で乗っているD殿はそんな事情を知らずに
振り返り振り返りご機嫌に手を振っている。

霧が出てきた。
3人対1人のアンバランスに傾いたリフトで我々は
これから長い長い下山をするのである。

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06

10

23:06
Tue
2008

No.0391

タバコ談議

どうもたばこ増税の動きがあるらしい。
1箱1000円の可能性もあるらしい。

そんな不穏な噂を朝のニュースで目にしたため、
早速会社へ駆けて行って喫煙室にたむろするジチョー達に
1箱1000円になったらどうしますかと聞いてみることにした。

「ぼかぁやめないね。絶対やめない。
1箱1000円でもボクに残った年数は大したことないもんね。」
そう言ったのは来年?再来年?定年のNジチョー。
「えっそんな話あんの?うーん、ボクもやめないね。
だって新婚旅行でオーストラリアに行った時、日本円で1000円くらいだったけど
高いなーと思いながら普通に買ってたもんね。」
そう言ったのはランチュウを愛する30代半ばのAジチョー。
「1000円・・・か。ボクはこれを機会に禁煙を考えるかも。
あぁ。。でもきっと無理。1000円はキツイなぁ」
そうぼやいたのは神経質そうな面立ちながら別に神経質でも何でもない40代のKジチョー。

思い思いの見解はあるにしても、
「でも、もしそうなればタバコ屋を回って何百箱も買いだめ(占め?)しますよね。」
と、いう問いにはみんな一斉に首を縦に振った。

ところで、番外編としてお昼休みに一つ年上の先輩に聞いてみたところ、
「えぇえぇぇ。1000円なんてとてもとても。
タバコなんて体に悪いしそうなったら私は絶対やめるわ。」
とのこと、無論、買いだめもしなさそうだ。
どうもつまらないのでやはりここは経験豊富なジチョー達に話を聞くことにする。

繁華街で歩いている時にタスポのキャンペーンに遭遇し、
いち早くタスポを手に入れて順風満帆なNジチョーは
実家が百姓だからとそのうち自分でタバコの葉を育ててみせるらしい。
Nブランドで売り出ししましょうと応援しつつ、
でも私にはタダでわけてくださいねと一応お願いしておいた。

カートン買いを励行し、今の所タスポがなくても不便は感じていないというAジチョーは
恐らくシケモクを集めるようになるだろうとのこと。
それをほぐして新しいタバコを作るのか?
結構いい案だと私は妙に納得した。

タスポについては沈黙を守っており、持っている様子は今の所ないものの
もしかしたらこっそり証明写真撮って郵送申込で作っているのかもしれないが定かではない
Kジチョーは常にフィルターにパイポをつけている。
彼は、パイポをつけてギリギリまで吸いきるのがよいと言った。
ヨロヨロの自前たばこをくわえることを思えばまだスマートかなと思った。

「で、babarは?」
くるりと3人が私の方に顔を向けた。
ジチョー達のご意見、とてもすばらしと思いました。
免税店でも2カートンしか買えないしそれじゃあ足しにならないので
増税が決まったらもちろん皆様と一緒に買いだめに走りますとも。
で、それが尽きたらNジチョーブランドのタバコの葉を少しわけてもらって
Aジチョーと一緒にシケモクを集めて自前タバコの作り方を教えて頂き、
それを家庭用として使います。
会社ではKジチョーと並んでパイポを使い、ギリギリまで吸いきる覚悟にございます。

それでこそbabar、一緒にがんばろうなとのお声を頂いた。

あと、自分の力ではどうにもならないけれども
1000円のタバコが買えない人のために、
ビールみたいにタバコの代替物が発明されたらいいなと思います。
例えば"発泡タバコ"とか。"第3のタバコ"とかとか。
健康ブームを鑑みて、煙やニオイのないやつ・・・
そうだ、抗夫が使っていたという噛みタバコを
もっとテイスティで今風に改良したやつみたいなのを。

そこまで言い終わると私はリセッシュを噴射し、
仕事の準備があるのでお先に失礼と部屋を後にした。

しかし私の希望としては、たばこが1000円になった暁には
外でタバコを吸ってはいけない法律を作って欲しい。
喫煙コーナーを限られたごくわずかなスペースにして
タバコが吸いたくても吸えない環境にあれば
吸い貯めのできないタバコは自然と本数が減るからである。
シンガポールでやたら高いタバコを買ったものの、
結局殆ど吸わずに出国した経験から私はそう思うのだが
ジチョー達には反対されそうなのでこのことは心の隅にそっと留め置いた。
06

04

23:01
Wed
2008

No.0389

拒否反応

私は血が嫌いだ。
尖ったものもあまり好きではない。
つまり、注射がとってもとっても苦手である。

今日は会社の健康診断。
心電図は希望者のみとのことだが、
それより採血を選択性にしてくれないかなといつも思う。
去年、痛くしないでくださいねと採血の人に懇願したところ、
バカ言ってんじゃないよ大のオトナが、腕に針刺すのに痛くないわけないでしょう
とぷりぷり怒りながらぶっすり刺されたもんで、泣いてしまおうかと思った。

毎年この健康診断で血を採っているのだが、
不思議なことにここ2~3年の間に私の腕は血管を探し難くなったようだ。
入社当初や学生の頃は「取るよーぶすっハイ終わりー」と、
文句を言う暇もなく血を抜き取られていたはずなのに
最近では腕をぴしぴし叩かれて
ぐーぱー運動を強いられて
腕を換えられて
腕をぴしぴし叩かれて
ぐーぱー運動を強いられて
やっぱり元の腕に戻ってきて
またぴしぴしの繰り返しなのである。

尖った針を前にして早く終わらせて欲しいのに
今来るか来るかと冷や汗をかきながら長時間を耐えるのは大変なストレス、
ここまで溜められるなんてもはや拷問ではないかと思う。

逃げ出すわけにはいかないので覚悟を決めて順番を待つ。
今年の採血の人は優しげな青年である。
しこたま怒られた去年の事があるので、今回は口を閉めて採血に臨むことにした。
今年の青年は説明が長い。
で、相変わらず針が刺さらず困っている。
きっとこれは「刺すなよ」と血管が息を潜めて隠れているに違いない。

怖いから目をつぶってじっとしていると、
青年は「今からちょっと痛いですよ」と針を刺す前に声をかけてきた。
確かに痛い。と、いうかこれは痛すぎる。
慌てて青年に、いやいや本当に痛い。ちょっとどころであるかいと言ってみたら
「あ、すいません。今のは本当に痛かったでしょうね。えらいすいません」
と青年は素直に謝った。それにしてもまだ痛い。
そしてどんどん痛い。
痛いですか気分悪くなりましたかと聞く青年に向かって、
「我慢するけど痛すぎる。気分は悪くないけど機嫌が悪い。こんなに痛い採血は初めてだ」
と、存分に騒いでやった。

針を抜いた瞬間に青年は一人で勝手に平静に戻り、四角いシールを貼ってくれた。
痛みが続くようなら言ってくださいねと優しい言葉をかけつつも
あっけなく私を椅子から追い出した。
腕の痛みはひかなかったけれどもいつまで続いたら言えばよいのか
判断が尽きかねたため、私は何も言わずにしまった。

夕方、内出血で青くなった腕を見ながらちきしょーと呟く。
怒りの矛先は、痛い注射をしたあの青年ではなく
逃げられるわけもないのに腕の奥深く沈み込んで
息を潜める往生際の悪い自分の血管である。
06

03

22:40
Tue
2008

No.0388

ありきたり

ユリを見た後、「登山道」と書かれた看板が目に入る。
ここはひとつ、登ってみるか。
そんな気軽な気持ちで登り始めた東尾の山。
登り口から2~3分ほどで民家があった。
そんなに古くはなく、人の気配はかすかに残っているものの恐らく無人。
そこからまた2~3分ほどで障子は破れ、引き戸は傾き、
中もぐしゃぐしゃになっている朽ちかけ寸前の廃屋があった。
離れのトイレ(多分)だけはまだかろうじて無事。
登山道の入り口付近と言えども結構な山の上であるこの地の
しかも徒歩道のみのこんな場所に住む人もあったのだなと思う。
道中、いくつもの小さなヲーターフォールがあった。
林の向こうにも少し見えている滝は、この大きな音からしてなかなか立派そうである。
こんな所にも滝があるなんてと、偶然の出会いに喜びを覚える。
と、ここまでは良かった。

細い細い道・・・私の常識としては、こういうのを世間一般では斜面というのだと思うが
とにかくそんな登山道を歩き、一応階段ぽくしてある部分を上がり、
ぐにっとぬかるみにはまった時にはもう帰りたくなった。

去年はヲーターフォールを目指して毎週のように車を飛ばした。
主要な滝はほぼ訪れてしまったので、
今年は滝を目指して何時間も歩くことを覚えた。
お陰で私は歩く事に抵抗のない人間となったわけであるが
それは目的があってのことである。
今回の登山道はいつになく険しい上に目的が何もない。
上には何があるのかも知らない。
そう言えばあてもなく山道を歩くのは初めてであることに気づく。

右足と左足を交互に出すという作業を意味もなく続けることが
何だかとてもつまらなく思えてきた。
景色を楽しもうにも周りは杉の木ばかりだし、
仮におもしろいものがあったとしても余所見しようものなら転落しそうな細い道。
意味のない山歩きがイヤになり、
引き返そうかと考えたのは既に1時間を経過しようとしていた頃である。
登山道は2.5kmだから恐らく頂上はすぐそこだろう。
なのにここで引き返してはそれこそまったく意味のない足の交互作業だ。

そして、帰りたい帰りたいとそればかり考えつつも、
どうしても足が止まらないのは前に1本しか道がないからである。
道がない、或いはどちらへ行けばいいかわからないのであれば諦めもする。
が、頂上への判然とした道がたった1本伸びているのを前にして
きびすを返して来た道を戻ることなんてできるわけがない。

そうだ、私が今山に登っているのは頂上があるからだ。
と、そんな単純な目的にやっと気づいた。

木で作られた階段はあるもののあまりに急であるため、
私のようにひ弱な登山者のために最後はロープが垂らされていた。
実は私、こういうこともあろうかと軍手をいつも持っている。
これまで使う機会はなかったこの軍手が、
ここへ来て初めてその存在に意味を成す事となった。

私は頂上へ到達した。
頂上付近には祀り事でもしていたのか「踊石」というでっかい岩があり、
別の村へと続く峠があり、昔は家があったのだろう石の土台があった。
標高1000mちょいの山の上まで続くこの道はただ伸びているわけではなく、
祀り事をするための場所へ行くためであるとか
別の村へと向かうためであるとか
人を家へ帰すためであるとか
そんな目的のある道だったわけなのである。

そして私がこの道を辿っているのは頂上へ向かうという目的があり、
私が軍手を持っているのは険しい道でロープをしっかり掴んだり
その辺の木に掴ってもトゲが刺さらないようにするという目的がある。

何の目的もなく、無意味なものなど
私の周りには何もなかった。
06

02

23:22
Mon
2008

No.0387

ここにしか咲かない花

東尾
―何もない場所だけれど
   ここにしか咲かない花がある


そんな花を見てきた。
神領百合(ジンリョウユリ)
というササユリの亜種で
babar県の一部地域のみにしか
咲かない珍しい花である。

場所は那賀町の東尾。
ちなみにアザラシの
ナカちゃんがいたのは那賀川。
そのずっと上流の方にある山の、
蛇紋岩と呼ばれる地帯に
この花は咲いている。

4~5年前までは一般公開されずに「ナカちゃんを守る会」ならぬ、
「百合を守る会」によって厳格に守られ続けてきたこの百合は
近年、大分増えてきたということもあり、4日間という期間限定で公開されるに至った。
山の中腹辺りで車を停め、矢印の看板に沿って森へ入ると
張り巡らされたネットの中でそのユリは守られていた。

ジンリョウユリ2 開けた場所に着くと、
 "募金箱"と書かれた箱が置いてあり
 300円也とのことなので
 ちゃぁんと用意しておいたお財布から
 お金を箱に入れた。

 と言うのも先日、
 シャクナゲの有名なお寺に
 見せてくださいと訪れたところ、
 いつもは無料で入れたのに
 この時期だけは入場料が要るとのことで
 財布を持っていなかった私は
 泣く泣く帰ったという経験があった。

それならそうと先に言ってくれなきゃぁとその時に思ったわけなのだが
今回は道中の看板に"有料"と書かれてあったため
私はちゃぁんと忘れずにお財布を握って車から出たのである。

こんな山の中に朝早くからユリを見に来る人は少ないらしく、
「守る会」の人らしきおっさんが、ボロボロの家の縁側で
レッドデータブックを片手に色々と話しかけてきた。

寺跡
―学生さんかい。
―違います。

―どこから来たのかい。
―babar市内。

―市内のどこ。
―babar町です。

―ホナおっさんくの近くやな。
―さよですか。

おっさんの話によると、つぼみを食べにくるやたら早起きの野鳥から守るため、
泥棒殿に花を盗まれるのを防ぐため、かれこれ8日間も泊り込んで見張っているとのこと。
このボロボロの家に寝泊りしているのかと問うたところ、この家は実は寺なのだそう。

―おじゅっさんがいませんね。
―いやぁ、昔の話ョ今は誰もおらん。ほなってホラ、みんな外に出てくじゃない。
 寝るだけならそりゃここでもええけどやっぱ水道や電気が要るじゃない。

ちょっと森から出たところに家を用意してあるけど毎朝4時から見回りしてるので
守るのも大変だ、政府から物資を空輸してもらわんなんとおっさんはカカカと笑った。
babar市内に住むこのおっさんがなぜそこまでしてこのユリを守っているのかと思ったら
彼は元々、この辺の出身で幼い頃からこの花の存在を知っていたのだそうだ。
ここで、おっさんも"外に出"た一人であることを知る。

このユリの名は、最初に発見された場所にちなんでつけられたものだが
おっさん曰く、東尾にも昔からあった花であり、
他所(どこが他所かは聞いてないのでわからないが)にもあることはあるが
それは人口交配で作られたぶぁいお(バイオのことか)であり、
同じ花だけれども同じものではないのだそうだ。

ジンリョウユリ1
 咲き始めは白っぽく、
 花が開くに連れて赤くなる。
 いつもは赤くなる前に閉鎖するが
 今年は守った甲斐があって
 たくさんたくさん咲いたので
 本来4日間の公開期間を
 8日に延ばしたのだ、
 だからねーちゃんはいい時に来た。
 おっさんはそう言った。

登ってゆっくり花を見ておいでとおっさんが言ってくれたので、お言葉に甘えて花を見て回った。
別にやましいことは何もないが人知れず花に顔を近づけて匂いを嗅いでみる。
いつも家に飾る白いユリのように酔いそうなほどの強い匂いではなく、
甘くて心地のよい、いい香りがした。

1時間ほどぐるぐると花を見て回るうちに、見物客が増えてきたため
そろそろお暇しますとおっさんにお礼とさよならを告げて去ることにした。
おっさんは、来年もまた来なさいと言ってくれた。

張り巡らされたネットであまり自生っぽくないなと正直、最初は思った。
「守る会」なんて胡散臭いと実はずっと思っていた。
タマちゃんを「守る会」と「見守る会」がケンカしてたみたいな
そんなイメージがずっとあったからである。
ナカちゃんに会いに行った時もおばさんとおじさんが
「大声出してナカちゃんを驚かすな」と大声でわーわー騒いでいたことだし。
けれども「百合を守る会」のおっさん達は普通にユリを守っていた。

「ユリがなくなってしまわないように守りながら、
できるだけ大勢の人にこのユリを見てもらいたいのだよ」
と、カメラの三脚にもたれながらユリを背景にカカカと笑うおっさんが
とても印象に残ったのである。
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